子供の頃、父の運転する車で
海水浴に行ったことをよく思い出します。
不思議なことに海のことはあまり覚えていないのですが
潮の香りのことを、とても鮮明に覚えています。
僕の故郷、越前市は盆地ですので、海に行くには山を越えなければなりません。
家族が乗った車は、まずいったん、蝉の鳴く山の中へと入っていき
どんどん登っていき、幼心に「本当に海に行けるのかな」と思い始めた頃
下り坂が始まります。クネクネと曲がる坂道を下っていくと
海が見えるよりも、ずっと前に、海の匂いが漂ってきました。
僕が今でも鮮明に思い出すのは、この瞬間のことです。
山の中にいて、海に着くのを今か今かと楽しみにしながら
海が見えない下り坂をクネクネと下っていく時に
鼻の奥をフワッと刺激する海の香りが漂ってきた、その瞬間。
「あぁ、とうとう海に着くぞー」と気持ちが昂ったものです。
昂った気持ちで下り坂の先を凝視していると
木の間からチラチラと海が見え始めます。
その時の心の踊りようといったら、もう。
だから、僕にとって、海水浴の記憶のハイライトは
山の中で嗅ぐ海の匂い、潮の香りです。
海に着いてしまえば、そこは一面の海で
もう海の匂いを意識することもなくなるのでしょうか
その辺りのことはぼんやりとしか覚えていません。
快晴の今日の夕方、近くの河原を歩いた時、ふと思い立って
いつもよりもずっと水際に近づいてみました。
大小の石がゴロゴロと地面を覆っていて歩きにくい中を
よろめきながら水辺に近づくと、、、そこには、潮の香りが漂っていました。
どういう原理なのかわかりませんが
山から川を通って海に流れこむのですから、その途中に海の匂いがあっても
おかしくはないのでしょう。
川の流れる音と、潮の香りは、なんともいえない心地よい組み合わせでした。
その時、父の運転する車で海水浴に行った、幼い頃の記憶が蘇りました。
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